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債務整理に関する記事詳細
同時廃止型と管財事件型の違い②-東京地方裁判所の振り分け基準
弁護士の櫻田です。
前回に引き続き,自己破産における同時廃止型と管財事件型の違いに関する記事です。
今回は,具体的に,東京地方裁判所において,同時廃止型と管財事件型の振り分けをする基準について詳細にご説明します。
前回の記事でご説明したとおり,同時廃止型は,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認められるときになされるもので,この費用の基準は20万円が原則となります。
また,東京地方裁判所の運用では,この財産基準以外にも基準が定められています。
以下,東京地方裁判所において,管財事件型に振り分けられる場合を挙げていきます。
目次
33万円以上の現金がある場合
申立時に33万円以上の現金を保有している場合は,管財事件型となります。
下記のとおり,財産の価値の基準は20万円が原則となるのですが,東京地方裁判所では,財産のうち,現金だけは33万円という異なる基準を設けています。
東京地方裁判所でも,以前は,現金についても20万円という基準でした。
しかし,他の裁判所では,現金については99万円を基準にしている場合もあったため,手続の平等の観点から,平成29年4月1日から,33万円の基準に変更されています。
現金が33万円あれば,最低20万円の管財費用は支払えるという考え方によるものです。
価値が20万円以上の財産がある場合
以下に記載する各財産について,それぞれ20万円以上の価値がある場合は,管財費用を支払えるので,管財事件型となります。
この20万円のカウントは,各財産の項目ごとにその財産の合計額が20万円以上かどうかによってなされます。すべての財産の合計額ではないので,注意が必要です。
つまり,例えば,預貯金について,A銀行に10万円の残高,B銀行に15万円の残高がある場合,それぞれの口座では20万円以上ではありませんが,預貯金という同じ財産の項目の合計額が20万円以上となるため,管財事件型となります。
他方で,例えば,預貯金がC銀行のみに10万円あり,解約返戻金が15万円のD保険の保険に加入している場合,それぞれの財産の項目ごとでは20万円以上とならないため,同時廃止型で扱われる可能性があります。
なお,20万円以上かどうかの判断は,破産手続開始決定時の価値によって判断されます。
預貯金
保有するすべての預貯金の合計額が20万円以上かどうかによって判断されます。なお,定期預金等を担保とする貸付がなされている場合は,破産手続開始により担保の実行が見込まれることから,預貯金残高から貸付残高を控除した額が20万円以上かどうかによって判断されます。
また,預貯金口座を有する金融機関に対して借金がある場合には,その借金額について預貯金に対する相殺が見込まれる場合には,相殺後の預貯金残高が20万円以上かどうかによって判断されます。
未払賃金(給与・賞与等)・報酬等
未払賃金の1/4相当額が20万円以上かどうかによって判断されます。民事執行法第152条第1項により,未払賃金については,原則として1/4相当額が差押えの対象となるからです。ただし,法人役員の報酬など,委任契約に基づく報酬については,民事執行法第152条第1項の適用がないため,その全額が20万円以上かどうかによって判断されます。
退職金
退職金見込額の1/8相当額が20万円以上かどうかによって判断されます。破産をするからといって退職をする必要はないのですが,仮に退職したのであれば支給されるであろう退職金見込額も財産として扱われます。民事執行法第152条第2項では,退職金請求権の1/4相当額が差押え可能となりますが,退職金が将来支給されるかどうかは未確定であることを考慮して,さらに1/2を乗じて,1/8相当額としています。
ただし,既に退職した場合又は近々に退職予定の場合には,支給された(されるであろう)退職金の1/4相当額が20万円以上かどうかによって判断されます。
貸付金・売掛金
貸付金・売掛金の合計額が20万円以上かどうかによって判断されます。ただし,その相手方に資力に不安がある場合や,そもそも連絡がつながらない場合などには,その回収可能性を考慮する必要があります。
積立金(社内積立,財形貯蓄,事業保証金等)
積立金の合計額が20万円以上かどうかによって判断されます。なお,積立金が勤務先を退職しないと返還されないような場合でも,これらを含めて20万円以上かどうかが判断されます。
保険・共済の解約返戻金
保険・共済の解約返戻金の合計額が20万円以上かどうかによって判断されます。保険会社から契約者貸付を受けている場合には,解約返戻金額から貸付残高を控除した金額が20万円以上かどうかによって判断されます。契約者貸付は,保険金又は解約返戻金の前払いの性質があるからです。
有価証券(手形,小切手,株件,転換社債)・ゴルフ会員権
有価証券・ゴルフ会員権の合計額20万円以上かどうかによって判断されます。自動車・バイク
自動車については,外車等の高級車を除いて,減価償却期間(普通乗用自動車で6年,軽自動車・商用車で4年)を経過していれば,0円(無価値)と判断されます。これ以外の場合には,業者による査定を受け,その査定額が20万円以上かどうかによって判断されます。
不動産
不動産については,大手など信用のある不動産業者2社の査定により,その査定額が20万円以上かどうかによって判断されます。査定額は,原則として,不動産業者2社の平均額によって算出します。なお,不動産に抵当権等の担保権が設定されていて,その被担保債権の金額(住宅ローンの残高など)が不動産の評価額を超えている場合(いわゆるオーバーローン)には,その不動産を処分しても,破産財団に組み入れることができる金銭は残らないことになります。
そして,被担保債権額(住宅ローンの残高など)が不動産の評価額の1.5倍以上のオーバーローン状態にあるときは,資産として評価しない取扱いをしています。
つまり,1.5倍以上のオーバーローンにある不動産以外に20万円以上の財産がない場合には,同時廃止型で扱われる可能性があるのです。
相続財産
不動産,現金,預貯金等の相続財産の価値が20万円以上かどうかによって判断されます。相続財産には,遺産分割がまだ終わっていないものも含まれます。
事業設備・在庫・備品等
現在又は過去に事業を営んでいた方が事業整備・在庫・備品等を有する場合には,その処分価格が20万円以上かどうかによって判断されます。その他破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産
過払い金や否認権行使の対象となる財産です。財産の性質ごとに20万円以上かどうかが判断されます。否認権に関する説明は,ここでは割愛します。
資産調査が必要な場合
代理人の弁護士による調査を経たものの,20万円以上の財産を有していないことが明白でないときは,破産管財人による調査が必要と判断され,管財事件型となります。
例えば,債権者数や借金総額が多数・多額の場合などには,財産的な裏付けがあったからこそ,このような貸付を受けることができたのではないかと判断され,同時廃止型を希望しても,管財事件型として取り扱われることがあります。
法人及び法人代表者の場合
法人については,同時廃止型で扱われることはなく,管財事件型となります。
また,現在及び過去の法人代表者についても,管財事件型となります。
東京地方裁判所では,法人代表者の破産申立てをする場合は,原則として,同時に,その法人の破産申立てをすることが推奨されています。なお,同時に申立てをする場合,法人と法人代表者を併せて管財費用が最低20万円で運用されています。
個人事業者の場合
現在又は過去に事業を営んでいる方(個人事業者)は,法人代表者と同様,管財事件型となります。
破産管財人による免責調査を経ることが相当な場合
借入原因がギャンブルによる場合など,免責不許可事由の存在が明らかで,その程度も軽くはない場合,過去に破産をして免責を受けてから7年以内の場合,債権者が免責に反対することが予想される場合などには,破産管財人による免責調査を経ることが相当と判断され,管財事件型となります。
なお,免責不許可事由が存在する場合でも,その程度が軽微であり,借金総額も400万円程度までで,代理人の弁護士が十分な調査・説明を尽くしている場合には,例外的に,同時廃止型で扱われる可能性もあります。
以上,東京地方裁判所の振り分け基準を見てきましたが,裁判所によって運用は異なるものの,この基準に準拠するところも多く,とても参考になります。
長くなってしまいましたが,今回はここまでです。