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破産手続における自由財産の拡張①-意義・基準・手続


弁護士の櫻田です。

自己破産をすると,所有している多くの財産は処分・換価されて,債権者に配当されることになります。

ただし,すべての財産が処分・換価されるわけではなく,一定の基準の下,自己破産をしても手元に残せる財産があります。これを「自由財産」といいます。

自由財産としては,破産法で,99万円までの現金及び差押禁止財産(日常の家財道具など)が規定されていますが,これら以外にも,例外的に,自由財産として拡張が認められることがあります。

そこで,今回は,自由財産の拡張について,その意義,拡張の基準,手続などについて説明します。

自由財産の拡張とは


自由財産の拡張とは,破産者の個別の事情に応じて,その生活の保障を図ることを可能にするため,裁判所の決定により,一定の財産を自由財産として取り扱うというものです。

つまり,自由財産の拡張が認められれば,その財産については,破産財団に属さず,破産者が自由に処分できることになります。

なお,次の財産については,法定の自由財産とされていますので,今回の拡張の説明からは除外します。

法定の自由財産
・99万円までの現金(破産法34条3項1号,民事執行法131条3号)
・差押禁止財産(日常の家財道具など。破産法34条3項2号)
・破産手続開始決定後に新たに取得した財産(「新得財産」。破産法34条1項)

財産の種別による拡張の基準


自由財産の拡張は,破産管財人の意見を聴いた上で,裁判所がその可否を決定するので,予見可能性を確保し,公平性を保つため,一定の基準が定められています。

まずは,財産の種別による基準がありますが,この点,東京地方裁判所の運用では,明確な基準が公表されていますので,確認しましょう。

処分・換価を要せず,自由財産の拡張があったものと認められる財産
・残高が20万円以下の預貯金(複数口座がある場合はその合計)
・見込額が20万円以下の保険解約返戻金(複数契約がある場合はその合計)
・処分見込額が20万円以下の自動車
・居住用家屋の敷金返還請求権
・支給見込額の1/8相当額が20万円以下の退職金債権
・電話加入権

他方で,上記に掲げた以外の財産については,その財産の種別上,原則として,拡張が認められないことになります。
例えば,株式等の有価証券,出資金,不動産などの財産は,生活の保障を図るという目的から外れてしまうからです。
ただし,破産者の個別の事情により,拡張の必要性・相当性が認められる場合には,例外として,拡張が認められることがあります

財産の金額による拡張の基準


次に,財産の金額による基準があります。

99万円基準

東京地方裁判所では,自由財産の総額が99万円以下となる場合は自由財産の拡張が比較的緩やかに判断され,99万円を超える場合にはより厳格かつ慎重に判断されるという運用がなされています。

大阪地方裁判所では,法定の自由財産として認められる現金の範囲が99万円であることから,原則として,現金も含めて,総額99万円の範囲で拡張を認めるという運用が行われています。つまり,拡張を求められた財産と現金の総額が99万円を超える場合には,原則として,99万円を超える部分の拡張は認められませんが,破産者の個別の事情に照らして,99万円を超えて拡張を認めることが,破産者の経済的更生に必要不可欠であるという特段の事情が認められる場合には,拡張が認められます。

東京地方裁判所の運用も,大阪地方裁判所の運用も,ニュアンスの違いはありますが,99万円を超える自由財産の拡張は例外的で難しいという点では同じです。

20万円基準

個別の財産について,それぞれが20万円を超えているかどうかで,拡張の可否を判断するという基準があります。
例えば,預貯金の合計残高が15万円であれば拡張が認められ,処分見込額が50万円の自動車であれば拡張が認められないことになります。

こうした20万円基準は,以前,一部の裁判所で採用されていましたが,平成30年11月現在では,この基準を採用している裁判所はほぼないものと考えられます(すべての裁判所の運用を随時把握しているわけではありませんので,悪しからず)。

自由財産の拡張の手続


まず,自由財産の拡張を求める財産がある場合,破産者は,破産手続開始決定が確定した日から1ヶ月以内に,自由財産拡張の申立てをする必要があります(破産法34条4項)。
この1ヶ月の期間は伸長をすることも可能ですが,通常,早期に破産管財人と協議した上で,すぐに準備を進めた方がいいでしょう。

申立てにあたっては,申立書に,拡張を求める財産を明記した上,拡張を求める理由を詳細に記載しなければなりません。また,併せて,通常,拡張を求める財産の目録も提出することになります。

自由財産拡張の申立てを受けた裁判所は,破産管財人の意見を聴いた上で,拡張の可否を決定します(破産法34条4項5項)。


今回は以上です。
自由財産の拡張が認められるかどうかは,その財産の種別や金額が判断基準となります。金額でいえば,99万円という基準がひとつの大きな分岐点になります。
拡張にあたっては考慮される個別の事情については,別記事でご説明します。
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