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債務整理に関する記事詳細
個人再生をすると自動車は引き揚げられるのですか?-所有権留保のある自動車の取扱い
弁護士の櫻田です。
個人再生をしても,代金を一括で支払って購入した自動車や,既にローンの支払いが終わっている自動車は,ローン会社等に引き揚げられることはありません。
これに対し,ローンで自動車を購入しており,まだローンの支払いが残っている場合は,原則として,その自動車の所有権はローン会社に留保されているので,自動車はローン会社に引き揚げられることになります。
ただ,例外として,ローン会社への引き揚げを拒否できる場合もあります。
そこで,今回は,個人再生をする場合の自動車の取扱いについて解説します。
目次
個人再生をしても自動車を引き揚げられない場合
まず,下記①~③の場合には,個人再生をしても自動車を引き揚げられることはありません。
①一括で代金を支払って購入した場合
②既にローンの支払いが終わっている場合
③ローンを組んだが,ローン会社に所有権留保がない場合(フリーローンなど)
また,ローンの支払いが終わっておらず,所有権留保がある場合でも,
④自動車検査証(車検証)の所有者の名義がローン会社でない場合
には,引き揚げを拒否できる場合があります。
上記④の場合については,やや複雑なので,あとで詳しく説明します。
なお,事情があって,ローン返済中の自動車を売却するなどして手放し,別の自動車を所有している場合も,その別の自動車は引き揚げられません。所有権留保は,あくまでローンの対象となる自動車にしか及ばないからです。
ただ,ローン返済中の自動車を売却等したことは問題になる可能性があります。
ところで,自動車を引き揚げられずに済む場合でも,個人再生では,認可された場合の返済する総額は所有する財産の価値以上でなければならないというルール(これを「清算価値保障の原則」といいます)があるので,残された自動車の価値が高いと,返済総額が増える可能性があります。この点は注意をする必要があります。
例えば,借金総額が600万円である場合,返済総額は債務基準だと120万円(借金総額の1/5)ですが,自動車の価値(査定額)が200万円あると,清算価値保障の原則により,最低200万円以上を返済する必要があります。
他方,年式が古い自動車などはほとんど価値がないでしょうから,これを保有していたとしても,自動車の価値だけでいえば,清算価値はほとんど増えず,返済総額に影響は出ないでしょう。
自動車ローン契約に付される「所有権留保」とは?
自動車ローンを組んでいてまだその支払いが残っている場合には,個人再生をすると,原則として,その自動車はローン会社に引き揚げられることになります。
その理由は,その自動車にローン会社の所有権留保が付されているからです。
所有権留保とは,割賦等の支払条件による売買契約において,売買代金の完済前に売主が買主に対して目的物を引き渡すものの,代金債権を担保するために,その所有権を代金完済まで売主等の債権者に留保することをいいます。
平たくいうと,自動車はいったん購入者に引き渡すけれども,ローンを完済するまでの間,その所有権はローン会社に残すということです。
この所有権留保があることで,ローン会社は,債務者のローン返済が滞った場合などは,所有権に基づいて自動車を引き揚げ,これを売却して,ローン残金の回収を図ることができるのです。
なお,再生手続では,この所有権留保のことを「別除権」といいます。
別除権を有する債権者は,再生手続によらずに,その権利を行使することができる(民事再生法53条2項)ので,ローン会社は,所有権留保に基づいて自動車を引き揚げることができることになります。
所有権留保に基づいて自動車を引き揚げるには「第三者対抗要件」を具備しなければならない!
第三者対抗要件とは?
ローン会社が所有権留保に基づいて自動車を引き揚げるには,「第三者対抗要件」を具備していることが必要です。第三者対抗要件とは,ローン契約における所有権留保を契約当事者以外の第三者に対しても主張できるのかという法的な要件をいいます。
ローン契約を締結した以上,契約当事者(ローン会社と債務者)の間では,所有権留保は完全に有効で,引き揚げを拒否できません。
しかし,所有権留保の効力を契約当事者以外の第三者(別の債権者など)に対しても有効であると主張できるかは別の問題です。別の債権者からすれば,ローン会社だけ自動車を引き揚げて債権を回収することは,公平性を欠くことになります。
そこで,別の債権者との関係上,ローン会社が所有権留保に基づいて自動車を引き揚げるには,第三者対抗要件を具備している必要があるのです。
自動車の種類によって第三者対抗要件が異なり,具体的には,次のとおりです。
【普通自動車(軽自動車等以外の自動車)】の対抗要件
自動車検査証(車検証)に所有者としてローン会社の名義が登録されていること(道路運送車両法4条5条)
【軽自動車等(軽自動車,小型特殊自動車,二輪小型自動車)】の対抗要件
引渡し(民法178条)
すなわち,軽自動車等以外の自動車(いわゆる普通自動車)にあっては,車検証にローン会社名義で所有者として登録されていなければ,ローン会社は,第三者に対して,所有権留保の効力を主張できず,結果として,債務者は自動車の引き揚げを拒むことができるのです。
他方,軽自動車等にあっては,引渡しが第三者対抗要件となりますが,通常,ローン契約上,占有改定によりローン会社に引渡しがなされるという条項が付されているので,ローン会社は,その条項により第三者対抗要件を具備しているとして,自動車を引き揚げることができます。
最高裁判所平成22年6月4日判決
この第三者対抗要件について,最高裁判所で重要な判決が出されていますので,以下,要旨をまとめます。この判決は,自動車ローンの業界を揺るがせた画期的なものでした。
<最判平成22年6月4日民集64巻4号1107頁>
自動車の購入者から委託されて販売会社に売買代金の立替払をした者が,購入者及び販売会社との間で,販売会社に留保されている自動車の所有権につき,これが,上記立替払により自己に移転し,購入者が立替金及び手数料の支払債務を完済するまで留保される旨の合意をしていた場合に,購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき上記立替払をした者を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,上記立替払をした者が上記の合意に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。
上記判決では,ローン会社が,再生債務者に対して,別除権の行使として,所有権留保に基づき自動車の引渡しを請求しましたが,ローン会社は,再生手続開始の時点で所有者として登録されていない限り,所有権留保を別除権として行使することは許されないとして,その請求を棄却しました。
まずは車検証を確認してみましょう!
以上,理屈の話で少々難しかったかもしれません。ともあれ,軽自動車等以外の普通自動車を保有している方は,まず,その自動車の車検証を確認してみてください。
車検証の「所有者の氏名又は名称」の欄に記載されているのが,登録された所有者です。
この名義が誰になっているのか確認してください。
ローンが残っている場合は,通常,所有者の名義はローン会社になっているでしょう。この場合は,自動車の引き揚げを拒否できません。
しかしながら,経験上,所有者の名義が,購入者(債務者)や販売店(ディーラー)になっていることもあります。
これらの場合には,自動車の引き揚げを拒否できる場合があります(細かい条件があるので,弁護士に相談することをお勧めします)。
ちなみに,普通自動車ではなく,ローンが残っている軽自動車等の引き揚げを拒否することはできないと考えた方がいいです。
例外的にローンが残っている自動車の引き揚げを回避する方法はある?
以上のとおり,ローンが残っていて,普通自動車であれば車検証上の第三者対抗要件が具備されていれば,自動車は引き揚げられることになります。
このように,法的には,自動車の引渡し義務がある場合でも,例外的に,自動車を残せる手段がないわけではありません。以下,その手段の一例を紹介します。
ただ,あくまで例外的な手段なので,実現できないことが多いものと考えていた方がいいでしょう。また,自身で判断して行うのではなく,必ず,事前に弁護士に相談してください。
親族等の第三者にローンを第三者弁済してもらう
まず,親族等の第三者がローンを一括で返済すれば,ローン会社には担保されるべき債権がなくなるので,自動車の引き揚げを回避することができます。これは,法的には,「第三者弁済」という手段です(民法474条)。ローン会社としては,この第三者弁済を拒むことはないでしょう。
なお,第三者弁済した人は,ローン会社(債権者)に代わって,債務者に対して,自分が弁済した分を支払えということができます(これを「求償権」といいます)が,親族等の近しい関係であれば,この求償権を放棄してくれることも多いでしょう。
この手段の難点としては,親族であっても,果たして,ローン残金を代わりに一括で支払ってくれるような方がいるのか?ということでしょう。
親族等の第三者にローンの債務引受をしてもらう
次に,親族等の第三者に,ローン返済の債務を引き継いでもらうという方法も考えられます。これは,「債務引受」という手段です。今までと同じ内容・条件で親族等の第三者に支払いを引き継いでもらうには,ローン会社と交渉して合意を得る必要があります。
交渉次第で成否は何ともいえませんが,債務引受をする第三者に相応の資力がないと,ローン会社は認めてくれないでしょう(その意味では,当初から保証人がついていれば,保証人に債務引受をしてもらうのがベストでしょう)。
また,自動車が高額で査定される場合も,ローン会社の合意は得にくいでしょう。ローン会社としては,自動車を引き揚げて売却すれば,簡単に回収することができますので。
なお,第三者弁済と同様,債務引受をしてくれるような親族等がいるかは,その人の人間関係次第になります。
別除権協定を締結してローンの返済を続けていく
生活や事業のために自動車を継続して使用する必要がある場合には,ローン会社と交渉して,裁判所の許可を受けた上で,別除権協定を締結して,自動車の引き揚げを免れることも考えられます。ただし,この別除権協定は,相当ハードルが高いです。
まず,裁判所の許可が必要ですが,許可の条件としては,事業のために自動車が必要不可欠であることを認めてもらわなければなりません。
単に,通勤や家族の送迎のために自動車が必要だという理由では,許可を受けられないことが多いです。
次に,自動車の査定額がローン残債務を下回る場合には,ローン会社の同意が得にくくなります。
すなわち,別除権協定は,自動車の客観的価値相当額(査定額)を別除権受戻金として支払うという内容になり,査定額を超える支払いを内容とする別除権協定を締結することができません。
したがって,ローンの残債務を自動車の査定額を上回っている場合には,別除権協定では,ローン会社の債権をすべて賄うことができず,ローン会社としては,協定締結に難色を示すことが多いでしょう。
今回は,以上です。
個人再生において,ローンが残った自動車の取扱いは,大きなテーマの一つです。
自動車を残したいという思いがあるとして,それが可能なのか,可能だとしても,経済的に残した方がいいのかなど,複雑な検討をする必要があります。
ご自身で判断せずに,まずは当事務所に相談ください。