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自己破産をしても必ず免責されるとは限らない?-11タイプの免責不許可事由


弁護士の櫻田です。

自己破産をすると借金がすべてチャラになると考えている方は多いと思います。

しかし,厳密にいうと,破産手続と免責手続は別ですので,自己破産(破産手続)をしても,免責の許可を受けることができなければ,借金はチャラにはなりません
ただ,破産手続と免責手続は別とはいっても,通常,破産手続と免責手続は同時に申立てをして,裁判所において両手続は並行して進行します

では,破産手続をしても,免責が許可されないことはあるのでしょうか?

この点,破産法では,252条1項で,免責が許可されない事由(免責不許可事由)が定められており,この免責不許可事由に該当すると,原則として,免責が許可されないことになります。
例えば,財産を隠していた場合,ギャンブルや浪費が原因で借金を作ってしまった場合,裁判所などに虚偽の説明をした場合などは,免責不許可事由に該当し,原則として,免責が許可されないことになります。

そこで,今回は,自己破産における免責不許可事由について,破産法252条1項各号に定められた事由を個別にご説明します。

債権者を害する目的で行う不当に財産価値を減少させる行為(252条1項1号)


破産法252条1項1号
債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。

保有する財産は,可能な限り保持・維持した上で,破産管財人により処分・換価された上で,債権者に配当されなければなりません。
そこで,債権者に配当されるべき財産を不当に減少させることは,債権者への配当の実現の妨げになり,免責不許可事由とされているのです。

具体的には,債権者の利益を害する目的をもって,例えば,
・財産を隠すこと(申立ての際に財産目録に記載しないこと)
・不動産を相場よりも安く売却すること
・保険を解約して返戻金を浪費すること
・正当な対価なく自動車の名義を変更すること
・離婚をする際,不相当に過大な財産分与をすること
・破産管財人に財産を引き渡さないこと
などの行為をすれば,免責が許可されないことになります。

ただ,上記のとおり,免責が不許可となるのは,これらの行為を「債権者を害する目的」でなした場合です。なので,債権者に迷惑がかかることをまったく知らずにしたのであれば,形式的には,免責不許可事由に該当しないことになります。

破産手続開始を遅延させる目的で行う不当な債務負担行為や不利益処分(252条1項2号)


破産法252条1項2号
破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。

まず,前段の「著しく不利益な条件で債務を負担」するとは,例えば,利息制限法などの制限利率を超える違法な金利で借金をすることなどが該当します。平たくいうと,いわゆるヤミ金などでお金を借りることです。

次に,後段の「信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分」するとは,例えば,クレジットカードを利用して,鉄道の回数券,各種金券,高額な商品などを購入して,これらを質屋などで買値よりも安価で売却して現金を得る行為などが該当します。いわゆる換金行為と呼ばれるものです。

なお,免責不許可となるのは,上記のような行為を,「破産手続の開始を遅延させる目的」で行った場合です。

このように,返済に困窮しているからといっても,ヤミ金などの違法な高利貸しからお金を借りたり,換金行為(現金化)をしたりすることは絶対にしてはいけません。

特に,クレジットカードによる換金行為(現金化)には,注意が必要です。
街中の看板やネット上のサイトには,こうした行為を誘引するような広告も見受けられますので,現金欲しさに安易に手を出さないことです。
また,返済する意思なく,クレジットカードを利用して現金化することは,最悪,詐欺罪として刑事罰を受ける可能性もあります。

非義務行為について特定の債権者に特別の利益を当たる目的又は他の債権者を害する目的で行う担保供与行為又は債務消滅行為(252条1項3号)


破産法252条1項3号
特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。

条文を読んだだけではなかなか分かり難いかと思いますが,支払不能になっていることを知りながら,一部の債権者に対してだけ義務のない返済等をする行為が該当します。こうした行為を「偏頗弁済」といいます。

弁護士に自己破産の依頼をすれば,弁護士から各債権者に受任通知が送付され,その時点ですべての債権者に対する支払いはストップされますが,この後に,例えば,勤務先や親族などにだけ優先的に返済をしてしまうことは,上記の偏頗弁済にあたります。

ただ,偏頗弁済にあたるには,①他の債権者を害する目的があること,②義務がない返済であることが必要です。
なので,②については,返済期日を繰り上げて前倒しで返済するような場合に限定されます。

浪費又は賭博その他の射幸行為による著しい財産減少行為及び過大な債務負担行為(252条1項4号)


破産法252条1項4号
浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと。

浪費やギャンブルが原因で借金をした場合は免責が許可されません
免責不許可事由の中で,一番よく知られているタイプではないでしょうか。

浪費」とは,破産者の地位,職業,収入及び財産状態に比して通常の程度を超えた支出のことをいいます。平たくいえば,身の丈に合わない多大な出費をしたことです。

賭博その他の射幸行為」とは,競馬,競輪,競艇,パチンコ,スロット等のギャンブルのほか,株,FX,ビットコイン,先物取引等の投機的な取引が該当します。

例えば,身の丈に合わない生活をし,高級車やブランド品を購入したり,風俗店に通ったりして借金をしてしまった場合,パチンコや競馬で借金が膨らんでしまった場合,FXなどの投資に失敗して借金をしてしまった場合などは,原則として,免責が不許可となります。

自己破産をする理由は人それぞれですが,どのような理由であれ,免責を受けると,借金の返済義務がなくなる半面,債権者にとっては債権回収が不能になり,多大な不利益を及ぼすことになります。
債権者にこうした不利益を与えるにもかかわらず,借金の原因が浪費やギャンブルなどの同情に値しないような借金についてまで免責をさせるのでは,債権者の納得を得られないことになります。
そこで,浪費や賭博が原因で借金をしたことは,免責不許可事由とされているのです。

ただ,返済不能な借金を抱える方には,多かれ少なかれ浪費の面が見受けられることは多く,多少のギャンブルや投資をしている方も相当数います。
このように,少しでも,浪費があったり賭博や投資をしたりすると,免責が許可されないのでしょうか?
実はそうではありません。
よほど悪質なケースでない限り,「裁量免責」といって,免責不許可事由には該当するけども,浪費や賭博・投資をやめて生活態度が改められ,その人の経済的な更生を図る必要があると裁判所が判断した場合は,その裁量で免責が許可されることになります。

このように,過去に浪費や賭博の事実があっても,絶対に免責はされないのだろうと悲観しなくてもいいです。
しかしながら,過去の反省をして,浪費等をしていた生活態度を改めることは必要不可欠です。少なくとも,私が,浪費や賭博をしている(していた)方から依頼を受ける場合は,受任後は,こうした行為は一切やめていただくよう指導させていただくことになります。

詐術を用いた信用取引による財産取得(252条1項5号)


破産法252条1項5号
破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。

破産申立ての1年前から,他人の名前を勝手に使ったり,生年月日,住所,負債額,信用状態等について誤信させたりして(嘘をついたりして),借金や信用取引をすることが免責不許可事由に該当します

詐術」とは,積極的に相手方を誤信させるような行為に限定されるとの判例もありますが,一般的には,支払不能状態にあることを黙秘して相手方に告げないこと(不告知)や,曖昧な又は不正確な事実のみを告げることも含まれると解釈されているので,注意が必要です。

帳簿等の隠滅・偽造・変造(252条1項6号)


破産法252条1項6号
業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠滅し,偽造し,又は変造したこと。

例えば,試算表,確定申告書,決算報告書など業務や財産に関する帳簿類を破棄したり,偽造・変造したりすることは,免責不許可事由に該当します

虚偽の債権者一覧表の提出(252条1項7号)


破産法252条1項7号
虚偽の債権者名簿(第248条第5項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第1項第6号において同じ。)を提出したこと。

申立時に,裁判所に対して,どの債権者からいくら借金があるかを記載した債権者一覧表を提出しますが,虚偽の債権者一覧表を提出することは免責不許可事由となります

一部の債権者についてだけあえて債権者一覧表に記載しないことも免責不許可事由に該当するので,注意が必要です。
例えば,迷惑をかけたくないなどの思いから,勤務先や友人からの借金についてだけ債権者一覧表から記載を除外してはいけません。

なお,過失により債権者一覧表に記載が漏れてしまった場合は,形式的には,免責不許可事由には該当しません。ただ,記載漏れの場合,記載が漏れた債権については,非免責債権として免責されないことになるので,注意が必要です。

裁判所の調査に対する説明拒否や虚偽説明(252条1項8号)


破産法252条1項8号
破産手続において裁判所が行う調査において,説明を拒み,又は虚偽の説明をしたこと。

繰り返しになりますが,免責が許可されると,債権者には多大な不利益が及ぶことから,破産手続において,破産者には,少なくとも誠実な対応をすることが要求されます。 裁判所や破産管財人が行う調査については,誠実に協力をして,ありのままの説明をしなければなりません。

そのため,裁判所や破産管財人の調査に対して,必要な説明をしなかったり,虚偽の説明をしたりすることは,免責不許可事由にあたります

不正な手段による破産管財人等の職務の妨害(252条1項9号)


破産法252条1項9号
不正の手段により,破産管財人,保全管理人,破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。

前号と同様,破産管財人の業務には協力をしなければならないので,破産管財人などの業務を妨害することは,当然ながら,免責不許可事由にあたります

例えば,破産管財人に対して,不動産や車等の財産の引継ぎを拒み,それらの処分・換価業務を妨害することは,免責不許可事由となります。

過去7年以内に自己破産等をしている場合(252条1項10号)


破産法252条1項10号
次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において,それぞれイからハまでに定める日から7年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成11年法律第225号)第239条第1項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第235条第1項(同法第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日

過去に自己破産で免責許可決定を受けている場合,その免責許可が確定した日から7年以内に,再度,自己破産による免責許可の申立てをしても,免責が許可されないという意味です。一度,自己破産で免責を受けたら,その後7年間は,自己破産をしても免責されませんよ,ということです。

この制限は,自己破産による免責に限らず,過去7年以内に,給与所得者等再生による個人再生手続をしたこと,ハードシップ免責を受けたことも含まれます

ただし,7年以内の再度の申立てであっても,事情によっては,裁量免責を受ける可能性はありますので,このような場合は,まずは弁護士に相談してみましょう。

破産手続上の義務違反(252条1項11号)


破産法252条1項11号
第40条第1項第1号,第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。

繰り返しになりますが,破産手続において,破産者は誠実であることが求められ,破産法に規定されている義務については必ず履行する必要があります。

例えば,裁判所における免責審尋期日や債権者集会には必ず出頭しなければなりませんが,正当な理由なくこれらに欠席をすると,免責が許可されないことになります。


以上,長くなりましたが,破産法に規定されている免責不許可事由の説明でした。
私の多くの実績や経験を踏まえた上での実務の取扱いですが,形式的に免責不許可事由に該当する場合でも,ほとんどの場合で裁量免責が許可されています。統計上でも,免責不許可となる割合は極めて低いです。
ですので,上記の免責不許可事由に該当することが疑われる場合でも,直ちに自己破産を諦めることはせず,まずは当事務所にご相談ください。
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