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債務整理に関する記事詳細
個人再生を利用すべき場合とは?-自己破産・任意整理との使い分け
弁護士の櫻田です。
任意整理による解決を図るには,収入状況から長期間返済を継続していくことには不安がある。とはいえ,自己破産をすることはどうしても避けたい事情がある。
このような場合,個人再生での解決が可能かどうか検討をすることになります。
しかし,自己破産などに比べて,個人再生は,一般的に認知されていないことが多く,また,制度も複雑なので,なかなか選択肢に挙がらないこともあります。
そこで,今回は,個人再生を利用すべき場合について,自己破産や任意整理とどのように使い分けるべきかを説明します。
自己破産ではなく,個人再生を選択すべき場合とは?
まず,自己破産ではなく,個人再生を選択すべき場合とは,どのような場合でしょうか?
以下,具体的にみていきましょう。
資格制限がある場合
自己破産をすると,一定期間,特定の職業に就けないことがあります(これを「資格制限」といいます)。例えば,警備員や生命保険外交員などは,破産手続をすることが認定・登録の取消事由になっています。
したがって,資格制限のある職業を続けながら,破産手続をすることは困難なことになるので,自己破産は避けるべきとの考えに至ることが多いでしょう。
もっとも,免責許可の確定によって資格制限はなくなる(これを「復権」といいます)ので,資格制限にかかるのは,破産手続が開始されてから免責許可が確定するまでの間に限られることになります。
管轄裁判所や事案によって異なりますが,資格制限がかかる期間としては,概ね4~5ヶ月程度です。
そこで,資格制限がかかる期間中,資格制限がかからない他の職種で働いたり,配置転換されたりして,免責許可の確定後,従前の仕事への復帰が可能ということであれば,資格制限による影響を避けることができ,自己破産を選択し得ることになります。
これに対し,転職や配置転換が見込めない場合や,復職が困難な場合などには,やはり自己破産を選択すべきではなく,個人再生の利用を検討すべきことになるでしょう。
資格制限がある仕事をしていても,自己破産をしたことが勤務先に分からなければいいという考えもあるかもしれません。
しかし,破産手続開始は官報で公告されますので,勤務先が官報をチェックしていると,解雇をされてしまう可能性も否定はできません。
勤務先の職種や対応については温度差があるでしょうから,一概にはいえませんが,資格制限がある仕事をしているのであれば,勤務先に分からなければいいと安易な考え方はされない方がいいと思います。
住宅などの財産の処分・換価を避けたい(残したい)場合
自己破産をする場合,原則として,自由財産(99万円以下の現金,差押禁止財産など)を除いて,所有している財産は処分・換価(売却・解約等)する必要があります。したがって,住宅などどうしても残しておきたい財産がある場合には,自己破産の利用は避けるべきです。
住宅をそのまま残して,借金を整理したいという希望がある場合は,まさしく,個人再生を利用することを検討すべきです。住宅ローンが残っている場合は,個人再生手続で住宅資金特別条項の制度を利用して,そのまま返済を続けることができます。
また,自動車や保険なども売却・解約をしたくない場合は,自己破産ではなく,個人再生を選択した方がいい場合があります。
とはいえ,財産の処分・換価については,例えば,次の点にも注意をする必要があります。
個人再生でもローン返済中の財産は残せない可能性が高い
個人再生をする場合でも,ローンを返済している財産については,原則として残すことはできません。個人再生で例外的に残すことが認められているのは,住宅ローンの場合だけです。
その他,例えば,ローンを返済している自動車については,ローン会社の所有権留保が付されていて,弁護士に債務整理の依頼をすると,原則として,その自動車をローン会社に返却しなければなりません(自動車を返却することを「引揚げ」といい,この場合のローン会社の所有権留保に基づく権利を「別除権」といいます)。
ただし,自動車の引揚げをする場合,普通自動車であれば,自動車検査証(車検証)の所有者欄にローン会社名が記載・登録されている必要があります(この点の詳細は,改めて別の記事でご説明するつもりです)。
自己破産でも処分・換価をしなくてもいい財産がある
自己破産をする場合でも,ありとあらゆる財産が処分・換価されるわけではありません。99万円以下の現金,日常家財道具等の差押禁止財産のほかにも,例えば,東京地方裁判所の運用では,20万円以下の預貯金,保険解約返戻金が20万円以下の保険,査定額が20万円以下の自動車などは,生活に必要なものとして自由財産として扱われ,残すことができるものとして扱われています。
また,事情によっては,自由財産の範囲が拡張されて,処分・換価の必要性や相当性を考慮した上で,20万円を超える財産を残すことができる可能性もあります。
ですので,価値が20万円以下の上記の財産を残したいということだけであれば,自己破産を選択してもいいことになります。
個人事業主が事業を継続する必要がある場合
個人事業主が自己破産をすると,事業用に使用している什器・備品,商品,売掛債権などの資産も破産財産となり,処分・換価の対象となるので,従前通りに事業を継続していくことは困難になるのが一般的です。そこで,事業をそのまま継続していきたいのであれば,自己破産ではなく,まずは,個人再生による解決が可能かどうか検討すべきです。
自己破産をすることに強い抵抗がある場合
自己破産をするとなると,住民票や戸籍に記載されるのではないか,一生借入れをしたりカードを作ったりすることができなくなるのではないか,選挙権がなくなるのではないかといったような誤解をされる方がいます。こういった誤解は,相談を受ける弁護士の方で,十分な説明をして解消していただくのですが,誤解がないにしても,自己破産は悪であるかのような嫌悪感を抱かれたり,全額は無理にしても少しでも返済をしたいという強い希望を持たれたりすることがあります。
もちろん,個人再生を利用するための要件を充たしていればという条件付きですが,自己破産にどうしても抵抗があるようであれば,次善の策として,個人再生の利用を検討することがあるでしょう。
中には,自己破産では申し訳なく絶望しかないが,少しでも返済をすることで家計を再建する意欲が生まれるという方もおり,そういった場合は,自己破産ではなく,個人再生を選択した方がいいかもしれません。
免責不許可事由があり,裁量免責も期待できない場合
借金の原因が,過度の浪費,ギャンブル,投資の失敗などにある場合,自己破産では,免責不許可事由があり,免責が許可されないおそれがあります。もっとも,形式的に免責不許可事由がある場合でも,少なくとも,弁護士受任後は,浪費などの借金の原因となった行為を改め,生活を改善し,さらに,管財事件型の手続をすれば,ほとんどの場合,裁判官の裁量で免責許可を受けられることになります(このことを「裁量免責」といいます)。
しかしながら,裁量免責を受けられるかどうかは,文字通り,裁判官の裁量に委ねられることになりますので,担当裁判官の心証や管轄裁判所の運用によって左右されます。生活を改善した上で,管財事件型の手続を経たとしても,必ずしも裁量免責を受けられるとは限りません。
また,免責の可否の判断にあたっては,債権者の意見も参考にされます。 特に個人の債権者などのように,中には,免責にあたって厳しい意見(免責不許可にすべきとの意見)を述べる債権者もおり,その意見に法的に意義があると,免責の結果に影響も出かねません。
このように,決定的な免責不許可事由があり,裁量免責の可能性を考慮しても,結果的に免責を受けることが期待できない場合には,自己破産ではなく,個人再生の利用を検討すべきといえます。
そもそも支払不能とはいえない場合
破産手続が開始されるためには,「支払不能にある」ことが要件となります(破産法15条1項)。そこで,厳密にいえば,返済は困難な状況になっているが,まだ支払不能とまではいえないのであれば,自己破産はできないことになります。
しかし,これは条文上の理屈であって,現実には,債務者本人として返済が困難であると自覚をした状態であれば,問題なく支払不能と認められるはずです。
また,条文上も,「債務者が支払を停止したときは,支払不能にあるものと推定する。」(破産法15条2項)と規定されていますが,弁護士が債務整理の依頼を受けて受任通知を送付することは支払停止に該当するとの判例もありますので,支払不能の要件については必要以上に気にする必要はないと思います。
任意整理ではなく,個人再生を選択すべき場合とは?
次に,任意整理ではなく,個人再生を選択すべき場合について説明します。
任意整理よりも個人再生の方が有利な解決が期待できる場合
個人再生は,借金の元本自体の減免を受けることが可能になる点,裁判所を介する公正かつ法的な手続で強制的に実現ができる点などで,任意整理よりも有利な解決を期待することができます。ここで,具体的な事例について,任意整理での解決と,個人再生での解決を比較してみましょう。
【事例】
・複数の業者から総額500万円の借金がある。
・毎月の返済額は合計10万円。
・所有する財産の清算価値は80万円。
・年間の可処分所得は60万円。
【任意整理での解決】
・元金500万円全額を返済し,利息や遅延損害金は免除されると仮定する。
・全業者と48回(4年)払いでの和解ができた場合:毎月の返済額10.5万円
・全業者と60回(5年)払いでの和解ができた場合:毎月の返済額8.4万円
任意整理の場合,少なくとも,元金500万円は全額支払う必要があります。
その上で,60回の分割払いで和解ができれば,毎月の返済額が8.4万円に減少することになります。
逆に,48回の分割払いしかできないとすると,利息や遅延損害金の免除を受けるというメリットはあるものの,毎月の負担額は10.5万円となり,手続前よりも負担は増えることになってしまいます。
【個人再生での解決】
・返済期間は36回(3年)と仮定する。
・小規模個人再生の場合:返済総額100万円 毎月の返済額2.8万円
・給与所得者等再生の場合:返済総額120万円 毎月の返済額3.4万円
債務額を基準とする返済総額は,500万円×1/5=100万円になります。清算価値は80万円で,上記100万円を上回らないので,清算価値の影響はありません。
小規模個人再生の場合,債務額基準の100万円を36回(3年)で返済すると,毎月の返済額は2.8万円になります。
給与所得者等再生の場合,可処分所得の2年分120万円が,債務額基準の100万円を上回るので,これが返済総額となり,36回(3年)で返済すると,毎月の返済額は3.4万円になります。
以上のように,任意整理では,60回(5年)払いでも,毎月8.4万円を返済しなければならないのに対し,個人再生では,36回(3年)というさらに短期間で,かつ,返済額も小規模個人再生であれば任意整理の場合の1/3(2.8万円)になります。
個人再生の方が有利な解決を図れることは明白といえます。
任意整理による解決が困難な場合
個人再生による有利な解決を図る(任意整理では返済をすることができない)という観点を離れて,そもそも任意整理による解決が困難な場合もあります。非協力的な債権者がいる場合
任意整理では,対象とする債権者すべてから分割払いについて合意を得る必要があり,分割払いについて協力をしてもらえない債権者がいると,解決を図ることができません。債権者の対応も様々ですが,分割払いの合意が得られないと,訴訟を提起し,給与差押え等の強制執行までしてくることもあります。
このように,非協力的な債権者がいる場合,任意整理による解決を図ることは困難になります。
債権者が多数又は借金が多額の場合
債権者が多数の場合,その中には,任意整理に非協力的な債権者が含まれる可能性が高くなります。また,借金が多額の場合,支払能力と照らして,分割払いの期間が長くならざるを得なくなるため,債権者から合意を得る可能性が減少し,また,生活の再建や長期の分割払いの履行可能性の点からも問題が発生することが多くなります。
訴訟提起や強制執行をされた場合
訴訟を提起されたり,給与差押え等の強制執行を受けたりした場合,任意整理による解決が困難になります。他方,個人再生の場合,手続開始の決定がされると,強制執行をすることができなくなります。
今回は,以上です。
個人再生は,自己破産と比べて認知度は低いかもしれませんが,条件さえ整えば,非常に有利な手続です。
特に,住宅を残したまま,その他の借金を大幅に減額することができるので,住宅ローン以外の借金の返済に苦しまれている方は,是非,利用を検討されるべきだと思います。