- 弁護士法人さくらさく法律事務所
- >
- 債務整理に関する記事(コラム)
- >
- 債務整理に関する記事詳細
債務整理に関する記事詳細
個人再生をしても減額されない債権②-非減免債権(離婚に伴う養育費・慰謝料)
弁護士の櫻田です。
今回は,前回に引き続き,個人再生をしても減額されない債権(非減免債権)についてご説明します。
前回の共益債権・一般優先債権との違いは,非減免債権は個人再生の手続の対象となるということです。
個人再生の手続の対象となるとは,再生債権として扱われ,具体的には,①裁判所への申立ての際,債権者一覧表に記載して債権者として申告する必要がある,②再生手続中に弁済することは禁止される,③再生計画で最低弁済額を算定する際の基準額に含める必要がある,ということです。
非減免債権は,離婚に伴う養育費や慰謝料が代表例として挙げられます。
非減免債権の種類と取扱い
非減免債権とは,保護すべき必要が高い債権について,形式的な平等を基本とする個人再生手続ではこのような債権を優遇する取扱いをすることが困難であるため,その債権者の同意がある場合を除いて,減免の対象とならないものとされた債権のことです。
非減免債権の種類
民事再生法では,非減免債権として,次のものを規定しています。再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(民事再生法229条3項1号)
離婚に伴う慰謝料は,この損害賠償請求権に該当する可能性があります。該当すれば,個人再生をしても減額されないことになります。再生債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(民事再生法229条3項2号)
夫婦間の協力及び扶助の義務,婚姻から生ずる費用の分担の義務,子の監護に関する義務,扶養の義務などに係る請求権(民事再生法229条3項3号)
離婚に伴う養育費は,子の監護や扶養義務に係る請求権となり,個人再生をしても減額されません。なお,後記のとおり,再生手続開始後に発生する養育費は,非減免債権ではなく,共益債権となります(個人再生手続とは関係なく支払う必要があります)。
非減免債権の取扱い
非減免債権については,その債権者の同意がある場合を除き,債務の減免の定めその他権利に影響を及ぼす定めをすることはできません(民事再生法229条3項)。ただし,非減免債権も再生債権ですので,まず,裁判所への申立ての際,債権者一覧表に記載する必要があります。
また,再生手続中,再生手続外での弁済は禁止されます(民事再生法85条1項)。
さらに,再生計画で最低弁済額を算定する際の基準額に含まれ,通常の再生債権と同様の債権額の確定手続を経ることになります。
そして,再生手続で確定した非減免債権については,弁済期間内(3~5年間)は,再生計画で定められた一般的基準に従って弁済し,弁済期間満了時に残額全額を弁済しなければなりません(民事再生法232条4項)。
すなわち,再生計画の弁済期間中は,他の再生債権と同様の減免率で計算した金額を分割で支払っていればいいのですが,その弁済期間満了時(3~5年後)には,既に弁済した分を除いた全額を支払う必要があるのです。
したがって,弁済期間満了時に一括で残額を弁済するのに不安があれば,弁済期間中にその分を積み立てておくか,債権者と支払方法について協議をしておく必要があります。
少々分かり難いと思いますので,以下,離婚に伴う養育費と慰謝料を具体例として説明します。
具体例①-養育費
養育費は,子の生活,教育,監護などのために必要なもので,扶養義務に基づくものですので,銀行や消費者金融からの借金よりも保護されるべきものです。
そこで,個人再生をしても,養育費は減額されません。
再生手続開始前に養育費の支払いを滞納している場合
まず,再生手続開始前に,既に養育費の支払いを滞納している場合,滞納分の養育費は非減免債権になります。なお,再生手続開始の意味ですが,これは,弁護士に個人再生を依頼した時点ではありません。個人再生の手続の流れとして,弁護士に依頼した後,必要書類を整えて,申立書一式を作成し,裁判所に個人再生の申立てをします。そして,裁判所において,申立書一式を審査し,支払不能状態にあると認めたら,再生手続開始の決定がなされます(民事再生法33条1項)。上記の再生手続開始は,裁判所による正式な再生手続開始の決定のことですので,注意が必要です。
滞納分の養育費は非減免債権ですので,再生債権として,申立ての際に債権者一覧表に記載し,再生計画の最低弁済額を算定するときの基準額にも含まれ,再生手続開始後は弁済することが禁止されます。
では,滞納分の養育費は非減免債権として減額はされませんが,どのように支払うことになるのでしょうか。具体的に事例で検討してみましょう。
【事例】
Aさんは,離婚して,月3万円の養育費を支払っていました。しかし,収入が減少し,再生手続開始前に,6ヶ月分の合計18万円の支払いを滞納していました。
Aさんには,この滞納分の養育費を含めて600万円の借金がありました。
なお,Aさんにはめぼしい財産はなく,小規模個人再生で申立てをしました。弁済期間は3年間を予定しています。
Aさんの再生計画が認可されたとすると,最低弁済額は120万円となり,免除率は80%(弁済率は20%)となります。
滞納分養育費の18万円も,再生手続の対象となりますので,弁済期間の3年間は,弁済率を乗じた36,000円(180,000円×20%)を毎月弁済していくことになります。月換算すると,1,000円になります。
しかし,3年間の弁済期間が満了した時点で,80%に相当する残額144,000円(180,000円-36,000円)を一括で支払う必要があります。
ですので,3年経過時に144,000円を一括で支払うことが難しいと見込まれる場合は,3年の間に積み立てを継続するか,さらに分割払いの交渉をするかなどの対応をする必要があるのです。
なお,後記のとおり,再生手続開始後に発生する月3万円の養育費については,再生手続の対象とはならず,共益債権として支払いをする必要があります。
個人再生手続開始後に発生する養育費は共益債権として支払いが必要
次に,再生手続開始後に,日々新たに発生する養育費については,共益債権となります。共益債権ですので,個人再生手続とは関係がなく,約束通りに支払いを継続していかなければなりません。
個人再生手続とは関係がないので,裁判所に対して事情を説明する必要はあるものの,債権者一覧表に記載はせず,再生計画の最低弁済額を算定する基準額にも含まれず,弁済禁止にも該当しません。
具体例②-慰謝料
慰謝料とは,精神上の苦痛など無形な損害に対して,それを金銭で賠償するものです。
離婚に伴う慰謝料としては,不貞,暴力,遺棄など,様々な発生原因が考えられます。
慰謝料は,養育費のように月々継続して発生するものではなく,概ね離婚成立時に,少なくとも再生手続開始前には確定しているもので,全額が再生債権として再生手続の対象となります。養育費のように共益債権とされることはありません。
問題は,この慰謝料が再生手続の中で減額されるかどうかです。
慰謝料が,
・再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
・再生債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
に該当する場合は,非減免債権として,滞納分の養育費と同様の取扱いを受けることになります。
慰謝料はそもそも非減免債権となるのか
一般的に,離婚に伴う慰謝料が生命や身体を害する不法行為に基づくことは考え難いので,慰謝料が非減免債権にあたるかどうかは,それが悪意で加えた不法行為に基づくものかどうかが判断されることになります。評価が分かれるところですが,「悪意」とは,単なる故意ではなく,積極的に相手を害する意図(害意)を意味するものとされています。
害意にあたるかどうかは,夫婦間の離婚に至る経緯などを踏まえて判断されることになります。
例えば,浮気などの不貞が原因で離婚した場合は,害意とまではいえないかもしれませんし,他方,DVなどの暴力が原因で離婚した場合は,害意があるといえるかもしれません。この点について明確な基準はなく,ケースバイケースで判断することになります。
害意に基づかずに発生した慰謝料であれば,非減免債権とはならず,減額の対象となります。
再生手続の中では非減免債権かどうかは確定しない
ご自身,また,個人再生を受任した弁護士も含めて,この慰謝料が非減免債権にあたるかどうかは,なかなか判断がし難いものです。しかも,特定の慰謝料が非減免債権にあたるかどうかは,個人再生手続の中では確定しません。個人再生手続は,再生債権の存否や金額,再生計画に基づく弁済内容などを決定するものですので,特定の債権者と再生債務者との間の慰謝料が非減免債権にあたるかどうかの判断はしてくれません。
再生債務者としては,非減免債権にあたらず,通常の再生債権としての取扱いを希望するでしょう。他方,慰謝料の債権者(離婚した配偶者)としては,非減免債権にあたり,減額されないことを希望するでしょう。
このような争いがある場合,個人再生手続の中では非減免債権かどうか確定しないので,債権者としては,再生債務者が弁済期間満了時に残額を支払わないのであれば,別途,訴訟などの法的手続をとって非減免債権かどうか確定をする必要があるのです。
今回は,以上のとおり,非減免債権,特に,養育費と慰謝料に関する説明をしました。
前回の共益債権・一般優先債権と併せて,個人再生をしても減額の対象にはなりませんので,注意が必要なところです。
個人再生をする上では,その内容のみならず,これらの減額の対象とならないものについても,一体的に整理して,どのように支払いをしていけばいのかを検討する必要があります。