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自己破産をしても処分されない財産①-自由財産(99万円以下の現金,差押禁止財産)


弁護士の櫻田です。

自己破産をすると財産はすべて残せないのではないかと思われる方もいらっしゃいます。
実際,管財事件型で自己破産をすると,所有している価値のある財産の多くは処分され,現金化(換価)された上で,債権者に配当されることになります。

しかし,自己破産は,破産者の経済生活の更生を図るためのものですので,すべての財産が処分されるわけではありません。決して多くはありませんが,自己破産をしても残せる財産もあります。

そこで,今回は,自己破産をしても処分されない財産についてご説明します。

目次

自己破産手続(管財事件型)における財産の分類


自己破産の手続は,「同時廃止型」と「管財事件型」のいずれかで行われます。

同時廃止型の場合,そもそも,処分・換価すべき財産がないことが前提となっていますので,財産の処分手続はなく,保有している財産はすべて残すことができます

他方,管財事件型の場合,財産の処分手続があり,保有している財産は処分・換価され,債権者に対する配当に充てられる可能性があります

以上のとおり,同時廃止型では,財産の処分手続はありませんので,以後は,管財事件型の場合を前提にします。

管財事件型の場合,破産手続における財産は次のように分類されます。

破産財団

破産財団とは,破産手続開始の決定の時点で,破産者の有する一切の財産のことで,処分の対象となるものです(破産法34条1項)。
なお,破産財団には,破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権も含まれます(破産法34条2項)。例えば,退職金請求権は,現在(破産手続開始前)の勤務関係に基づいて発生するものなので,破産財団を構成することになります。

ここで,基準時となる「破産手続開始」の意味には注意が必要です。
この破産手続開始とは,弁護士に対して,破産手続の依頼をした時点ではありません。破産手続の流れとしては,弁護士に依頼してから,必要書類等を収集し,申立書一式を作成して,裁判所に対して申し立てをします。申立てを受けた裁判所は,申立人が支払不能の状態にあると判断すると,破産手続開始の決定をします(破産法30条1項)。上記の破産手続開始とは,この裁判所による破産手続開始の決定のことをいいます

基本的には,裁判所に申立てをして,破産手続開始時点で保有する財産はすべて破産財産となり,処分の対象となります。
しかし,例外として,一部の財産については,下記の自由財産として,処分されないことになります。

自由財産

自由財産とは,破産手続開始の決定の時点で,破産者が有する財産のことで,処分の対象とならないものです。

定義は分かり難いかもしれませんが,大事なことは,破産手続開始の時点で保有している財産ではあるけども,破産財団には含まれず,処分の対象とならない,つまり,自己破産をしても残せる財産ということです。

新得財産


新得財産とは,破産手続開始の決定の後に,破産者が新たに取得した財産のことで,破産財団とならないため,処分の対象とはならないものです。

新得財産は,その財産を取得した時点が異なっていることに注目です。
破産財産・自由財産ともその基準時は破産手続開始時ですが,新得財産は破産手続開始後に取得したものです。
破産手続開始後に取得した財産については,破産手続による処分の対象としないことで,自己破産後の経済生活の更生を図るようにしているのです。

自由財産として処分されない財産


破産法では,自由財産として,
99万円以下の現金
差押禁止財産
自由財産(破産財団に属しない財産)として拡張が認められた財産
が認められています(破産法34条3項4項)。

上記のうち,③自由財産として拡張が認められた財産については,説明が少々複雑になりますので,後日,別の記事でご説明します。

以下,①99万円以下の現金,②差押禁止財産,についてご説明します。

99万円以下の現金

99万円以下の現金については,自己破産をしても処分の対象とならず,無条件で保有することが認められます

ただ,あくまでも現金(紙幣や硬貨)ですので,銀行等の金融機関の預貯金などは含まれません。今日の預貯金の流動性の高さを考えると,こうした取扱いに疑問がないとはいえませんが,破産手続上は,現金と預貯金は別の財産とみなされます。

では,そもそも「99万円」という金額はどこから出てくるのでしょうか?
破産法では,99万円という金額が明記されているわけではなく,「民事執行法131条3号に規定する額に2分の3を乗じた金額」が破産財団に属しないもの(自由財産)として規定されているだけです。
そして,民事執行法131条3号では,「標準的な世帯の2ヶ月の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」の差押えが禁止されているところ,この「政令で定める額」が月33万円と定められています(民事執行法施行令2条)。
なので,民事執行法では,この2ヶ月分の66万円は最低限生活に必要なお金として,差押えの対象とはしていないのです。
破産法では,民事執行法の基準をさらに拡張して,その1.5倍(3/2倍)の99万円まで法定の自由財産として認めているのです。

差押禁止財産

差押禁止財産についても,自己破産をしても処分の対象とならず,無条件で保有することが認められます

どのような財産が差押禁止財産にあたるかは民事執行法で規定されていますが,多くの方が関係する代表的なものとしては,日常生活に必要な衣服や家具が挙げられます。

以下,民事執行法などに規定されている差押禁止財産と差押禁止債権を列挙します。
すべて覚える必要もありませんが,重要なものについては,コメントを加えておきます。

民事執行法131条に規定されている差押禁止財産

生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用品,畳及び建具(1号)
例えば,冷蔵庫,洗濯機,テレビ,調理器具,食器,机,布団,ベッドなどの家電・家具や,日常着用する衣服などは,差押禁止財産に当たり,自己破産をしても処分されません。
1ヶ月間の生活に必要な食料及び燃料(2号)
農業者の農器具,肥料,労役の用に供する家畜,その飼料,次の収穫までの種子など(4号)
漁業者の水産物の採捕や養殖に欠くことができない漁網,漁具,えさなど(5号)
技術者や職人の業務に欠くことができない器具など(商品は除く)(6号)
実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの(7号)
仏像,位牌など礼拝や祭司に直接欠くことができないもの(8号)
系譜,日記,商業帳簿など(9号)
破産者やその親族が受けた勲章その他の名誉を表章するもの(10号)
学校その他の教育施設で学習に必要な書類・器具(11号)
発明又は著作に係るものでまだ公表していないもの(12号)
義手,義足その他の身体の補足に必要なもの(13号)
建物などの防災設備,消防機械・器具,避難器具,その他備品(14号)

民事執行法152条などに規定されている差押禁止債権

国や地方公共団体以外から生計を維持するために継続的に支給を受ける給付の4分の3に相当する部分(民事執行法152条1項1号)
例えば,民間の保険会社の個人年金保険などのことです。給付額の4分の3に相当する部分は差押えの対象となりません。
給料,賃金,棒給,退職年金,賞与など債権の給付の4分の3に相当する部分(民事執行法152条1項2号)
例えば,給与の3/4に相当する部分は差押えの対象となりません(逆にいうと,1/4に相当する部分までは差押えの対象となります)。
ただし,自己破産手続では,給与のように定期的に支給される債権自体が処分の対象になることはありません
前記のとおり,自己破産における財産の基準時は破産手続開始時ですので,その時点で,既に支給済みの給与は預貯金や現金として取扱いとなります。また,破産手続開始後に支給された給与は新得財産として処分の対象とはなりません
退職金・退職手当などの性質を有する債権の給付の4分の3に相当する部分(民事執行法152条2項)
上記の給与とは異なり,退職金債権は,破産手続開始前の原因に基づいて発生するものですので,実際に退職をしておらず,その支給を受けていない場合であっても,破産手続で処分の対象となります
破産手続開始前の労働に基づくものなので,その支給自体が破産手続開始後であっても新得財産とはなりませんので,注意が必要です。

自己破産手続において,退職金(債権)は次のように取り扱われます。
①破産手続開始前に既に退職をして退職金を受給している場合
既に退職をして受給した退職金は,その保管状態に応じて,現金又は預貯金の取扱いとなります
②近々に退職する予定がある場合
破産手続開始後,近いうちに退職する予定がある場合は,民事執行法の規定通り,支給予定額の4分の1に相当する額が処分の対処となります
③当面は退職する予定がない場合
破産手続開始時点で仮に退職した場合に支給されるであろう見込額の8分の1に相当する額が処分の対象となります

しかし,実際に退職しないのに,退職金の一部が処分対象となることは大変なことです。また,自己破産を理由に退職をすることも,その後の収入の手段が失われることになり,本末転倒です。
ですので,実務としては,処分対象部分について,自由財産として拡張を求めたり,現金などで代わりに破産財団に組入れたりするという対応をすることが多いです。
国民年金,厚生年金,共済年金などの公的年金の受給権(国民年金法24条など)
小規模企業共済の受給権(小規模企業共済訪15条)
失業保険の給付金の債権(雇用保険法11条)
生活保護の受給権(生活保護法58条)


今回は,以上になります。
実際の処分・換価の基準や,自由財産の拡張については,記事を改めてご説明します。
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